Dev Toolとは、開発者が製品を作成する際に利用するソフトウェアを指します。コードの記述、テスト、デバッグ、ドキュメント作成、デプロイ、運用など、多くの側面が含まれます。広範なカテゴリにわたるものであり、例えばVisual Studio Code(VSCode)などの統合開発環境(IDE)、StripeやTwilioのようなAPI、ReactやNext.jsなどのライブラリやフレームワーク、AWSやVercelといったインフラストラクチャのサービスもDev Toolの一部です。
YCではGitLabやPagerDutyといったDev Toolの成功例を多く支援してきました。これらの企業の事例を通じて得た知見を共有することで、Dev Tool企業の立ち上げに役立つ情報を提供します。
Dev Tool企業の立ち上げには技術的な知識が欠かせません。開発者向けの製品を開発する以上、創業者自身も開発者であることが望ましいです。YCで支援した多くのDev Tool企業では、共同創設者全員が技術者で構成されています。開発者は自分が使うツールを作ることが多く、自分自身の問題を解決する形で製品開発を進めることができます。
良いDev Toolのアイデアを見つけるためには、自分が日々直面している問題に目を向けることが重要です。例えば、開発者はテストやドキュメント作成、品質保証などの作業を好まない傾向があります。これらの「面倒な作業」を解決するツールを開発することは、一般的に良いアイデアだと考えられます。ただし、競争が激しい分野でもあるため、市場での差別化が求められます。
また、ランタイムに関連するツール、つまり運用中に必要なツールは、開発者にとって必須のものが多いため、優れたビジネスチャンスになることが多いです。例えば、APIのように運用中に不可欠な製品であれば、ユーザーの成長とともに使用が増加し、利益の増加に繋がります。
一方で、ライブラリやフレームワークをオープンソースで提供することも一般的ですが、これらを収益化するのは難しい場合があります。収益化にはホスティングサービスの提供などが有効な手段となります。
企業の立ち上げにおいて重要なのは、「作ること」と「ユーザーと話すこと」です。どちらを先に行っても構いません。重要なのは、ユーザーからのフィードバックを得て、迅速に製品を改善することです。
プロトタイプの段階では、あまり凝ったものを作る必要はありません。「早く作って早く壊す」精神で、速いペースで繰り返し改善することが重要です。多くの場合、最初に作ったコードの90%は破棄されることになります。そのため、この段階での目標は「実際に価値のある10%」を特定することです。
ユーザーからのフィードバックを得るためには、プロトタイプの段階でもユーザーに見せることが大切です。完璧な製品を待つ必要はありません。ユーザーからのフィードバックをもとに、価値あるMVP(最小限の実用的な製品)を開発します。この「価値」という概念が重要で、最初は小さなニッチ市場であっても、その分野で10倍優れた製品を提供することが、ユーザーにとっての大きな価値となります。
例えば、Algoliaも最初は非常に限定的な機能しか持っていませんでした。しかし、そのシンプルな自動補完機能が当時の他の選択肢よりも圧倒的に優れていたため、多くのユーザーにとって価値がありました。
開発者は一般的に内向的で、営業活動や顧客との会話を好まない傾向にありますが、Dev Toolの創業者には大きな強みがあります。それは「自分自身が顧客である」ということです。開発者である創業者は、顧客の言語を理解し、ニーズを深く理解することができます。
ユーザーを見つける方法には、アウトリーチとローンチの2つがあります。まずは自分のネットワークを活用し、以前の同僚やクラスメートに連絡を取ります。その後、LinkedInなどを活用してターゲットを広げます。この際、メッセージは必ずパーソナライズし、マーケティングのようなスパム的なアプローチを避けるべきです。
ローンチについては、何度も行うことが重要です。最初のローンチでは、Hacker Newsのような開発者向けのコミュニティで「Show HN」セクションを活用すると良いでしょう。製品の新しさや興味深い点をシンプルに説明し、コミュニティとの対話を通じてフィードバックを得ます。
Dev Tool企業の販売戦略には、大きく分けて「アウトリーチ」と「インバウンド」があります。初期段階では、誰もあなたのことを知らないため、まずは自分から積極的にユーザーにアプローチする必要があります。その後、ブランドが認知され始めると、自然とインバウンドのリードが増えてきます。
営業チームの採用については、できるだけ遅らせるべきです。最初は創業者自らが製品を売り込むべきであり、1ミリオンドル(約1億円)の年間収益に達するまでは営業チームを雇うべきではないというのが一つの目安です。
また、Dev Toolの営業では「デモンストレーション」が非常に効果的です。開発者は長い営業資料を読むことを好まず、実際に製品を使ってみることを望んでいます。したがって、製品のデモを見せることが最良の販売アプローチとなります。
Dev Toolのマーケティングにおいて重要なのは、認知度を高めることです。最初に取り組むべきは、自分のコミュニティを見つけることです。Hacker Newsや特定のサブレディット、あるいは関連するDiscordコミュニティなどがその候補です。この段階で製品を売り込むことはせず、有益な情報を提供することで、コミュニティの中で信頼を築くことを目指します。
また、ドキュメントの充実もマーケティングの重要な要素です。Stripeなどの企業が示すように、開発者は優れたドキュメントを求めています。製品の機能が完成するまではドキュメントも完成しないと考えるべきであり、ドキュメントはマーケティングの一部として非常に重要です。
Dev Tool企業の立ち上げにおいて重要なのは、完璧なアイデアを待たず、すぐに行動を起こすことです。迅速に構築し、ユーザーと話し、早期にローンチしてフィードバックを得ることで、最適な製品を見つけていきます。オープンソースの活用についても検討し、自分自身が最良の営業担当者であることを忘れずに取り組みましょう。あなた自身が顧客の言語を最も理解しており、彼らがどこで時間を過ごしているかを知っているのです。
もしあなたがDev Toolを開発しているなら、YCへの応募も検討してみてください。
https://www.youtube.com/watch?v=z1aKRhRnVNk