参考情報:https://www.youtube.com/watch?v=4UE4e6b2qtA
インタビューの冒頭で、フィールド氏は、ソフトウェア開発の現状について「Figmaを創業して以来、ソフトウェアの作成量は指数関数的に増加している」と語る。これは、ノーコード・ローコードツールの普及や、AIによるコード生成技術の進化によって、より多くの人々が容易にソフトウェアを開発できるようになったことを示唆している。
このような状況下で、ソフトウェアの差別化要因として、デザインの重要性がますます高まっているとフィールド氏は指摘する。「AI時代において、デザインはソフトウェアを差別化する機会を提供する」という言葉は、まさに核心を突いている。機能面での差別化が難しくなるほど、ユーザー体験(UX)やインターフェース(UI)といったデザイン要素が、ユーザーの選択を左右する決定的な要因となるのだ。
フィールド氏は、Figmaの初期から国際的なユーザーベースが強固であり、デザイナーだけでなく、非デザイナーも積極的にプラットフォームを利用しているという事実に触れ、デザインへの関心の高まりを裏付ける。これは、デザインが単なる装飾ではなく、製品の使いやすさや価値を高めるための重要な要素として、広く認識され始めている証拠と言えるだろう。
AIがデザインプロセスにどのような影響を与えるのかという問いに対し、フィールド氏は「今のところ、AIは非常にツールの範疇にある」と明言する。AIは、アイデア出しの幅を広げたり、反復作業を効率化したりすることで、デザイナーの生産性を向上させる強力なツールとなり得る。
フィールド氏は、「ローワー・ザ・フロア(参入障壁を下げる)、レイズ・ザ・シーリング(可能性を広げる)」という表現を用いて、AIの役割を説明する。AIによって、より多くの人々がデザインプロセスに参加できるようになり、同時に、熟練したデザイナーはこれまで以上に高度な表現や複雑な課題に取り組むことができるようになる。
しかし、AIが完全にデザインを代替するわけではないとフィールド氏は強調する。プロンプト(指示)からアプリを生成するAI技術は存在するものの、現時点では、洗練されたデザインのアプリを生み出すには至っていない。「プロンプトからアプリを作れるが、それが優れたデザインのアプリになるとは限らない」という言葉は、AIの限界を示唆している。
デザインの核心には、単に機能を満たすだけでなく、「なぜそれが必要なのか」「誰が使うのか」「どのように感じてほしいのか」といった深い洞察と意図が不可欠だ。フィールド氏は、デザイナーの役割について「より多くの時間を経るにつれて、デザイナーの役割に自信を深めている」と語り、AI時代においても、人間のデザイナーがソフトウェア開発において重要な役割を果たすと確信している。
フィールド氏は、現在のAIモデルが抱える課題についても率直に語る。デザインを「問題解決に応用される芸術」と定義し、現在のAIモデルは「芸術(拡散モデル)」の側面と「問題解決(大規模言語モデル)」の側面を個別に持っているものの、両者を統合し、真に創造的なデザインを生み出すには至っていないと分析する。
特に、デザイナーが持つ「共感」の能力が、現在のAIモデルには欠けていると指摘する。ユーザーのリサーチ、ニーズの把握、感情への配慮、文化的背景の理解など、多岐にわたる要素を統合し、最適なデザインを導き出す能力は、現時点では人間にしか持ち得ない。
また、フィールド氏は、大規模言語モデル(LLM)の進化についても言及し、数学やコンピュータサイエンスの問題解決能力が向上しているものの、それがそのまま優れた製品体験の判断力に繋がるわけではないと指摘する。最高の数学者やエンジニアが、必ずしも優れた製品デザイナーであるとは限らないという例えは、AIと人間の能力の質的な違いを示唆している。
AIの進化は、ユーザーインターフェース(UI)やユーザーエクスペリエンス(UX)の未来にも大きな影響を与えるだろう。フィールド氏は、現在、チャットベース、ビジュアルデザイン、ターミナルプロンプティングなど、多様なインターフェースが試みられている状況を「可能性の空間が爆発的に広がっている」と表現する。
将来的には、拡張現実(AR)、仮想現実(VR)、複合現実(XR)といった新たな技術が登場し、これまでとは全く異なるダイナミックなインターフェースが生まれる可能性も示唆する。最終的には、脳とコンピュータを直接接続するブレイン・コンピュータ・インターフェース(BCI)が実現するかもしれないと、SF的な未来にも言及する。
一方で、AIによるコード生成が進むことで、ユーザーごとにカスタム設計された垂直特化型ソフトウェアが登場する可能性についても触れつつ、その実現には懐疑的な見方も示す。スナップチャットのような複雑なコンシューマー向け製品は、ユーザーが学習し、慣れる必要があるため、インターフェースが頻繁に変わることは、学習コストを高め、使いやすさを損なう可能性があると指摘する。
フィールド氏は、エンジェル投資家としての経験も踏まえ、近年、スタートアップの創業者たちがデザインを重視する傾向が強まっていると感じている。「人々は以前にも増してデザインに関心を持ち、デザインの価値を理解している」という言葉は、デザインが単なる後付けの要素ではなく、事業の成功を左右する重要な戦略的要素として認識され始めていることを示唆する。
ソフトウェア開発が容易になるほど、「どのように機能するか」だけでなく、「どのようにうまく機能するか」が重要になる。デザインは、使いやすさ、快適さ、楽しさといった感情的な価値を提供し、ユーザーのエンゲージメントを高める役割を担う。
インタビューの中で、Figmaの創業秘話にも触れられた。2011年、フィールド氏と共同創業者のエヴァン・ウォレス(Evan Wallace)氏は、WebGLという技術に着目し、当初はドローンやゲームといった分野も検討していたという。しかし、最終的に「ソフトウェアがより簡単に構築できるようになるにつれて、デザインがより重要になる」という仮説に基づき、デザインツールという領域に焦点を当てることになった。
Figmaの成功の背景には、初期からの強力な国際的なユーザーベース、デザイナー以外のユーザーの積極的な参加、そして何よりもリアルタイムでのコラボレーション機能の存在が大きい。2016年の正式リリース時に発表されたマルチプレイヤー機能は、デザインの未来を大きく変える革新的なものであり、ユーザーからは「これがデザインの未来なら、キャリアを変える」といった驚きの声が上がったという。
初期の苦労やピボットの経験、そして最初の顧客獲得におけるエピソードなど、フィールド氏の語る創業ストーリーは、多くのスタートアップ創業者にとって示唆に富むものだ。特に、ユーザーからのフィードバックを真摯に受け止め、製品開発に活かしていく姿勢は、成功への重要な鍵となる。
Figma社内におけるデザイン文化についても語られた。優秀なデザイナーを採用することの重要性を強調しつつ、社内イベント「メイカーウィーク」の存在を紹介する。これは、エンジニアだけでなく、全社員がFigmaをより良くするためのアイデアを出し、プロトタイプを作るハッカソン形式のイベントであり、Figmaスライドのような革新的な機能もここから生まれている。
このような社内文化は、社員の創造性を刺激し、組織全体のデザイン思考を高める上で重要な役割を果たしていると言えるだろう。
スタートアップが初期の段階を乗り越え、スケールアップしていく過程で直面する課題についても、フィールド氏は自身の経験を踏まえてアドバイスを送る。最も重要なのは「自己認識」であり、自分が今何に最も時間を使っているかを把握し、それを他の人に任せる方法を考えることだという。リソースが限られている場合は、収益化や資金調達、あるいは創造的な解決策を見つける必要がある。
この「自己認識」と「タスクの委譲」のサイクルを継続的に回していくことが、組織の成長と自己改善に繋がるとフィールド氏は強調する。特に創業者は、常に目の前のタスクに追われがちだが、時には立ち止まって組織全体を見渡し、改善点を見つける必要がある。
インタビューの最後に、Figmaの今後の展望とAIへの期待について語られた。フィールド氏は、ソフトウェア開発における「アイデア出しから実装、そして改善」というループ全体をよりスムーズに、より多くの人々にとってアクセス可能にすることに注力していくと語る。
AIは、このループの各段階において、デザイナーや開発者の生産性を向上させる強力なツールとなる可能性がある。特に、アイデア出しやプロトタイピングの初期段階において、AIを活用することで、より迅速に多様なアイデアを探索し、検証することが可能になるだろう。
最後に、現代のスタートアップ創業者に向けて、フィールド氏は「できる限り早く行動すること」というシンプルなメッセージを送る。現在の技術進化のスピードを考慮すれば、迅速な行動は成功への不可欠な要素となる。特に、AI関連の技術は日進月歩で進化しており、チャンスを逃さないためには、素早い意思決定と実行力が求められる。
フィールド氏自身の経験からも、長期的な計画に固執するのではなく、まずはプロトタイプを迅速に作成し、ユーザーからのフィードバックを得ながら改善していくアプローチの重要性が示唆される。
ディラン・フィールド氏のインタビューを通して、AI革命がデザインにもたらす影響は決して小さくないことが明らかになった。ソフトウェア開発が容易になる一方で、ユーザー体験の質がますます重要になり、デザインの価値はこれまで以上に高まっている。
AIは強力なツールとしてデザイナーの可能性を広げるが、創造性、共感、判断力といった人間の持つ本質的な能力は、依然としてデザインの中核を担い続けるだろう。UI/UXの未来は多様性に満ちており、新たな技術との融合によって、私たちの想像を超えるインターフェースが登場する可能性を秘めている。
スタートアップにおいては、デザイン思考を早期から取り入れ、ユーザー中心の開発を進めることが、競争優位性を確立するための重要な戦略となる。Figmaの成功は、コラボレーションとユーザーの声に真摯に向き合うことの重要性を示唆している。
AIとデザインが共存し、進化していく未来において、デザイナーは単なるツールの操作者ではなく、ユーザーのニーズを深く理解し、テクノロジーと創造性を結びつける架け橋となるだろう。ディラン・フィールド氏の言葉は、そんな未来への確信と期待に満ちている。